はじめに
財産を相続できなくなる反面、負債を負担する可能性もなくなるから安心だとお考えの「相続放棄」。ところが、相続放棄をしても免れない可能性のある負債があります。
それが、固定資産税・都市計画税(以下「固都税」)です。親が残した空き家も、親が死んだ後に相続放棄さえすれば、固都税も支払わなくて済むとお考えの場合には、注意が必要です。
まず、民法第939条(相続放棄の効果)
ご存知の方も多い相続放棄の効果について、民法939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。」と定めています。「初めから」の「初め」とは、相続開始(被相続人の死亡時)を意味します。つまり相続放棄の効果は、一瞬たりとも相続しなかったことになるという意味です。
ところが、地方税法343条(台帳課税主義)は・・・
「固定資産税は、固定資産の所有者に課する。所有者とは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者として登記又は登録がされている者をいう。この場合において、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前【1】に死亡しているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとする。」と定めています。
登記簿上の所有者が1月1日時点で死亡している場合には、相続登記が終わっていなくても、登記簿上の所有者の相続人に対して、課税するとしているのです。
民法939条と地方税法343条の優劣関係は?!
多くの裁判例がある訳ではありませんが、平成12年2月21日横浜地方裁判所は「被相続人の債権者が、相続対象不動産について、債権者代位により相続人への相続登記を経由したうえ、仮差押えの登記をした場合、相続人が賦課期日において登記簿上所有者とされていたことからなされた固定資産税及び都市計画税の賦課決定処分は、その後、登記名義人が相続放棄をしても適法である。」と判断しています(裁判例要約はWestlawJAPANによる)。下級裁判所の判断とはいえ、民法よりも地方税法の規定が優先する。つまり「相続放棄しても一度課税台帳に載った限り、固都税の支払いを免れない」と判断してしまったのです。
具体的な対処法は?!
相続放棄申述の受理が死亡年中になされた場合と、死亡年の翌年になった場合とで対応方法が異なりますが、皆様は「相続放棄さえすれば、固都税も免れるとは限らない」ことを覚えておいてください。
【1】地方税法318条は固都税の賦課期日を1月1日と定めています。
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