3か月ほど前に、週刊誌が「相続は『早いもん勝ち』に変わっていた」なる記事を掲載しました。
これは本当でしょうか?
筆者は司法書士ですが、改正法施行(令和元年7月1日)前後から、遺言による相続登記を依頼されることが急増しています。それも、遺言の効力発生前(すなわち遺言者の死亡前)から、遺言者が死亡したら、早急に「遺言による相続登記を申請して欲しいから、今から準備を頼む」という依頼です。しかも、依頼は、複数の遺言執行者である弁護士から来ています。
改正法施行前には、「遺言書があるのに」「遺言者の死亡前から」このような依頼をされることはありませんでしたので、どうやら、週刊誌のいう「相続は早い者勝ち」に理由がありそうです。
1.改正法施行前
施行前には、「特定の遺産を特定の相続人に相続させる趣旨の遺言があれば、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される」という最高裁平成3年4月19日判決があったので、急いで登記をする必要がありませんでした。遺言の効力が絶対的であったため、法定相続分を超える相続分をもらうことを遺言で約束された(たくさん貰える)相続人は、悠々と遺言に基づく相続登記を行なうことが出来たのです。
2.改正法
ところが、改正法では、次のような規定が民法に新設されました。
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2
1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2.(略)
しかも、法律が定めた割合(法定相続分。民法第900条)で、相続人全員名義に相続登記をするだけであれば「相続人であれば一人」でも(他の相続人の協力を一切得ずに)することが出来ます(共有物に関する保存行為。民法第252条但書)。さらに、不動産の持分だけでも購入することをうたい文句に営業する不動産会社も存在しています。
すなわち、「不動産はAに相続させる」という遺言書があったとしても、相続人がABと二人以上いる場合には、自分の取り分が少ないと察知した他の相続人Bが、勝手に全員(AB)名義で相続登記をして、Bの持分だけを不動産会社に売却した場合、Aは、不動産会社に負けてしまうのです。よって、改正法が施行された現在、「自分は遺言をしてもらってるから大丈夫」と、タカをくくっていると大きな損害を負う可能性があります。
3.対応策
最後に、遺言を確実に実行するためには、どうすれば良いのかをお伝えします。
⑴ 遺言者死亡前の場合
① 自筆の遺言である場合には、公正証書遺言への切り替えをしましょう。自筆証書遺言の場合には、家庭裁判所で遺言検認手続きを行なう必要があり、公正証書遺言よりも登記できるようになるまでに時間がかかるためです。
② 遺言の効力発生前(遺言者死亡前)から、イザというときには、大至急登記ができる準備をしておきましょう。
③ 特に大事な事業用財産などの場合には、遺言よりも生前贈与などへの切り替えも検討しましょう。
⑵ 遺言者死亡後で、相続手続が未了の場合
出来るだけ早く、司法書士事務所に依頼なさって、超特急で手続きを依頼しましょう。
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